[Event] 杉本博司 本歌取り - Art Capturing

ギャラリー小柳で開催中の杉本博司の本歌取りに行ってきました.
JOE
本歌取り [Art Capturing] は Richard Serra が作った JOE という彫刻作品を撮影した作品です.でも,展示にはオリジナルの作品に関する説明は一切ありません.ぼんやりした白黒の写真が5,6枚,曲線と空が美しいです.asahi.comの記事を書いた人も,写真を見てもまったくわからなかったと書いていましたが.私もまさに同じ.最初は写真に見とれるばかりでした.その後,会場にあった杉本博司の文書が書かれたリーフレットを読み,少しだけ意味が分かった気がします.本歌取りとは「すぐれた古歌や詩の語句,発想,趣向などを意識的に取り入れる表現技巧」のこと.写真を写されることを意識して擬態化してしまった世の中に対して,世界で初めて写された写真はありのままの世界をとらえていたという意味でオリジナル(本歌)であると位置づけられます.杉本博司は,様々な趣向をこらし(罠を仕掛けて),今やリアルとなってしまった擬態化した世界のほつれと隙間,すなわち初めて写真が写された世界と同様の瞬間を写そうとしているのだそうです.それが本歌取りだと.JOEを彫刻として写真撮影することは擬態化した世界を写すのと同じです.彫刻の不思議な形を利用して様々な角度からフレーミングしてJOEを撮影することで,オリジナルはなんだか全くわからないものを撮影することが本歌取りにつながってゆくのだと想像しています.

ほかに彫刻というか立体のオブジェクトが2点,"Conceptual Form" の 写真が1点 ありました.彫刻はアルミニウムでできた数式を立体化した模型で完璧なフォームの美しさに見とれてしまいます.でも実際には理想形との誤差があるはずで完璧なフォームのはずはないのですが,少なくとも私には完璧に見えてしまう.台座の素材が凝っていて,一つは直島の神社でも利用されている光学ガラス,もう一つの方は特大望遠鏡用の特殊ガラスを利用していてます.作品数が少ないのですがすばらしい展示だと思います.展示は1/27までで入場無料です.
ところで,JOE のある The Pulitzer Foundation for the Arts は安藤忠雄の建築だそうです.行ってみたいところ.


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[Event] 大竹伸朗 全景

展示終了前日の12/23にMOTの大竹伸朗「全景」に行ってきました.相変わらずアーティストの予備知識などはほぼゼロ状態です.
「全景」
「全景」は現在51歳の大竹伸朗の大回顧展です.古くは小学校・中学校時代の作品から20代にロンドンで作り始めてから64冊になるスクラップブックや網膜シリーズやジャリおじさん,日本景などなど全部で2000点あまりの作品が公開されています.なにしろ2000点,ものすごい量です.作品は幅広く,スクラップブック,コラージュ,風景画や劇画チックなイラスト,ゴミで作ったようなオブジェやネオンのオブジェに船の船首など.卒業旅行でモロッコに行ったわたしとしてはモロッコの風景を描いた作品群の「カスバの男」がよかったです.「網膜シリーズ」と呼ばれる作品群の噂を聞いて楽しみにしていました.不思議に美しいけれども気持ち悪いような作品です.抽象的な模様あるいはシミのような絵でサランラップを巻き付けたようなものとか,テーピングのテープを貼り付けたような作品もありました.説明を読んでも作品を見ても未だによくわかっていませんが,きっと自分の熟成が必要なのだろうと思います.当日は大竹伸朗率いるダブユニット[ダブ平&ニューシャネル]の noisy な生演奏を聴くことができました.一番の感想はとにかくかなり疲れたということでしょうか.作品の一部は展覧会公式サイトJDNリポートで見られます.

展示方式について思ったこと
今回の展覧会では額に納められて壁に掛けられた作品はガラスへの映り込みが多くて気になりました.作品を見るつもりが自分の顔しか見えなかったりして...今回のように作品の数が半端なく多いと学芸員の方も展示でいろいろ悩まれるのではないかと思うのですががんばってほしいです.

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[Event] ヴィオラ・チューズデイ

森美術館のヴィオラ・チューズデイというプログラムに参加しました.はつゆめ展では見ることのできない作品[はつゆめ]を鑑賞しビオラ作品の解説を聞くプログラムです.私は第3回のICCの学芸員の畠中実さんの回に参加しました.
はつゆめ
はつゆめ
はつゆめはビオラがSONYのプログラム,アーティスト・イン・レジデンスで日本に滞在中の1981年に完成しました.作品は日本の様々な風景を撮影したシングルチャネルです.ちなみにシングルチャネルとは,単一の画面で再生するように作成されたビデオ作品のことだそうです.車のフロントガラスから撮影した夜の東京の風景やホタルイカの漁,灯籠流しや,竹やぶの風景,恐山,置き石を中心に撮影した遠近感の狂った画など様々.ストーリーなどはなく散文的な映像の集合です.とくに海の上のホタルイカ漁の船を海岸から撮影した映像では,寄せる波がカメラの視界をちょうど遮るような高さに設置されており,暗闇の海を煌々と照らす船が波で隠れるとその光が残像としてぼんやりと残り幻想的で美しいです.

ビル・ヴィオラの作品解説など
ラフト
畠中さんによると,当時のビデオカメラで撮影すると光が残ってしまうのは技術的にどうしようもないことなのだそうです.そこを逆手に利用して美しい映像をつくるヴィオラはヴィデオ・アーティストとしてすごいという話をしていました.最近ではプラズマや液晶のディスプレイを利用した高精細で動きの少ない絵画のようなインスタレーション作品を作っているのですが,これらはHDの高フレームレートのカメラで撮影した映像をスローモーションで再生します.最先端の技術を駆使して今までみたことないようなものを作ることで生まれる作品のインパクトは,確かに技術に精通していなければ実現できないのです.また,サウンド・アーティストとしても活躍していた経歴を持つヴィオラは,映像作品においてサウンドを効果的に利用しています.サラウンドで見る[ラフト/漂流] や[クロッシング],[ミレニアムの五天使]の水しぶきや炎の轟音は映像の迫力を強め,静と動を明確に表現しています.この会の質疑で聴覚障害の方が「ヴィオラ作品で音はどのように利用されているか?」というような質問をされていたのですが,この質問がヴィオラ作品のサウンドのすごさをあらためて気づかせてくれました.

失敗
予感はしていましたが,[はつゆめ]の上映中にマイクロスリープを採ってしまいました.睡眠不足が続いていたので危険だとはおもってましたが,案の定.そんな自分にがっかりです.もう一度見たいなあと思っていたら,ICCで12/24にやるのだそう.でも,行けないなぁ.ICCと言えば,解説の畠中実さんが企画した「八谷和彦 - OpenSky 2.0」という展示がICCで開催中だそうです.こちらも面白そう!

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[Design/Art Podcast] MoMAudio

MoMA [The Museum of Modern Art] では Acoustiguide という会社の電話の受話器を長くしたようなデバイスを利用してオーディオガイドを聞きながら美術館の見学ができます.そのオーディオガイドはすべてpodcastで公開されています.ガイドは4つのカテゴリがあり,その時の特別展の特集を紹介するSpecial Exhibitions, キュレーターやアーティストによる作品解説をする Modern Voices, 作品解説やアートにまつわる話題を子供向けに作成した Modern Kids, MoMA収蔵作品を詳細に解説する Visual Descriptions の4つです.一個のpodcastに4種類含まれています.podcastのアートワークで作品が見れる場合もあるので,作品を見ながら解説を聞いたりするとなかなか楽しいです.でもやっぱり実物を見に行きたくなりますけどね...
Modern Kids は子供向けに楽しくわかりやすく作られているので個人的におすすめです.基本はオーディオガイドなので,デバイスの操作案内もオーディオの最後に入っている場合があります.すべてのオーディオは5分以下で,多くは1~2分くらいの長さです.2006/12/8 現在で101本.英語.
podcastには含まれないコンテンツとして,Think Modern: Adult and Academic Programs Audio Archive というのがあります.こちらはアーティストトークや講義のようで1時間以上のボリュームがあるものもあります.ただ手動ダウンロードしないといけないのが難です.もう一つ,MoMA関連のオーディオコンテンツとしてMoMAが提携している P.S.1 Contemporary Art CenterWPS1 というのがあります.こちらはアート関連の radio&podcast で,ラジオのアーカイブや音楽なども含めてコンテンツがかなりあるようです.こちらは聞いたことがないのであらためて書きたいです.


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[Event] 伊東豊雄 建築 | 新しいリアル

東京オペラシティアートギャラリーで開催中の[伊東豊雄 建築|新しいリアル]に行ってきました.

3つの展示スペース
展示は3つのスペースに別れていて,伊東豊雄が提案するエマージンググリッドを紹介するspace A,ここ10年くらいの伊東の建築を紹介するspace B,伊東豊雄の軌跡をパネルで紹介するspace C の構成です.
space A で紹介されているエマージンググリッドは ミース・ファン・デル・ローエ に代表される20世紀のモダニズム建築の無機質で均質なグリッドによるシンプルなデザインではなく,蟻の巣のような洞窟のような有機的で複雑なグリッドで構成されたデザインです.2009年に完成する予定の[台中メトロポリタン・オペラハウス]のコンペティションに提出したパネルや,巨大な模型,コンセプトを説明するビデオが展示されています.次の間には,岐阜県各務原市の市営斎場の[瞑想の森]の建築の屋根の一部を再現したものが展示されていて,その上を歩くことができます.この屋根がエマージンググリッドのような有機的で波のような形をしていて,その構造と作り様を説明した映像が放映されていました.鉄筋にベニヤをのせてコンクリートで固める感じです.
space B は大きな部屋の真っ白な床面全体が有機的なグリッドのように流線型になっていて,5つの建築の模型や映像,そして壁面に各建築を特徴づける構造の設計図面みたいなものがあります.表参道の TOD'S の壁の再現されたものがあったり, 床はうっかりすると転んでしまいそうな不安があったのですが,この不連続,不規則で有機的な感じに慣れてしまうと居心地がよくなるようなそんなところです.ここの部屋で紹介されている建築は,[リラクゼーションパーク・イン・トレヴィエハ],[多摩美術大学新図書館],[Mikimoto Ginza 2],[TOD'S],[サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン],どれも違う形のグリッド・あるいはパターンを用いて作り出した有機的なデザインで面白い建築ばかりです.その先の スペースで巨大プロジェクタによる [仙台メディアテーク],[ぐりんぐりん] などの紹介映像が放映されています.
space C では伊東豊雄の年表として,本人のコメントや雑誌,パネル,そして伊東豊雄に関わった人々のインタビュー映像などが狭めの廊下の壁にずらーっと展示されています.なかなか面白くてじっくり見ていたのですが,閉館時間になってしまって最後の方見れずじまい.若かりし頃から徐々に変わる建築の趣向みたいなのがわかるのでよいです.


感動
建築に対する考え方,建築物そのものの面白さにこんな人がいたんだ〜と感動しました.伊東豊雄自身が面白いと思ってやっていることが,世界でも面白いと受け止められているという現実もまた刺激的です.ぜひ,エマージンググリッドな家に住みたいなあ.まずは実物を建築物を見に行かなきゃ.

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